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【日記 4月9日】桜
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 金曜に山の学校に行った際に、用務員のおばちゃんに声を掛けられました。

「遠いところへよく来られましたね、先生。」

先生と呼ばれるのは、違和感があります。

「いやぁ、僕は先生ではないですから。そんなに遠くも無いですよ。従兄弟がこの学校に通ってましたから、配属が決まったときは驚きましたよ。」

「あぁ、そうなんですか。従兄弟さんはなんというお名前?」

「○○と言います。家はこの学校のすぐそばですよ。」

「あぁあぁ、○○さん。・・・○○さんて言えば確か・・・」

「はい。」

「確か、あそこのうちの子は3人兄弟で、何年か前に真ん中の女の子が・・・」

「はい。亡くなりました。もうすぐ丸4年経ちます。」



 Sちゃんは僕より一つ年上。従兄弟なので、夏には家に来てよく一緒に遊んでもらいました。スイカを食べたり、一緒にラジオ体操したり。24時間耐久ぷよぷよ勝負とかもしたなぁ。僕は長男なので、上の兄弟がいません。なので、年上の従兄弟のT君、Sちゃんがニイチャンネェチャンみたいなもんでした。

 僕が大学に入って、授業が始まるか始まらないかと言った頃、ちょうど4年前の今頃ですね。僕の両親が珍しく深刻そうに話しこんでいました。

「ちょっと座って話聞けよ。」

オヤジが言いました。

「Sちゃん、ガンだって。もう手遅れなんだそうな。」

僕は言っている意味がわかりませんでした。駅のパン屋でバイトしているSちゃんと、3日前にあったばかりなのです。そのときに確かに、おなかが痛いとは言っていたけれど。

「持って3ヶ月らしいわ。若いから、進行が速かったらしい。」

僕の頭の中でグルグル色々なものが回りだしました。僕より一つ年が上な人間がガン?ガンって、年取ってからの病気じゃないのか?

「ふざけんなよ。」

こう吐き捨てたのを、僕は覚えています。誰に対して言ったのか、わかりません。神様とかそんなヤツの類が実在するならば、そいつのツラを思いっきり蹴たぐりまわしてやりたかった。

「もっと他に、死ぬべきヤツがいるじゃん。」

冷静を装ってはいたつもりですが、動揺していました。

「早速、明後日に手術だって。お見舞いに行こう。」

お見舞いに行ったときは、Sちゃんは意識がちゃんとありました。

「よう。元気け?あ、元気じゃねぇか。あはは。」

僕は面白くも無い冗談を言って、病室に入って行きました。

「ここ。こんなに切ったん。」

Sちゃんは僕に傷口の部分を服の上から示しました。

「大変だったなぁ。ま、これで治ったやろ。」

Sちゃんはいわゆる「告知」ってヤツを受けていませんでした。なので僕も、胃潰瘍か何かだと思っていることにしていました。

「・・・退院したらよぉ、どっか南の島にでもみんなで旅行しよう。たっつぁんとかWとかもみんなで。」

「あー・・・でも、おなか切ったし。・・・一度でいいからビキニってヤツを着てみたかったなぁ。」

これを聞いて、僕は涙が出てしまいました。しかし、本人の前で泣いたら、感づかれてしまいます。必死に堪えました。

「今は、桜がキレイだわ。もうすぐ満開って感じだな。」

後ろを向きながら、僕はそう言って話題を変えました。

「見たいなぁ。」

「任しとけよ、取ってくるわ。」

 次のお見舞いに行く前、僕は松川べりの桜の木の下に行きました。手ごろな枝を折ってやろうと思って頑張りましたが、なかなか折れません。マサーシーと二人掛かりで、無理矢理むしり取りました。
 近くを通りかかる人が、怪訝な目や非難の目で僕を見てきましたが、全く気にしませんでした。きっと、桜の木も事情を判ってくれてるって。判ってくれないような木なら、後で根元からチェンソーで叩き切ってやるよ。

 桜の枝を持っていくと、Sちゃんは昏睡状態でした。若いときのガンっていうのは、原因が遺伝としかいえないそうです。食生活が悪かったわけでも、タバコ吸いまくったわけでもないんです。運。それだけ。



 Sちゃんは2回の手術を受けて、入退院を繰り返しました。僕が最後に見たSちゃんは痩せて別人のようでした。僕は見ていられなくて悲しくて、すぐに部屋を出てしまいました。あのとき最後に手を握っておけばよかったと、未だに思います。

Sちゃんは8月に亡くなりました。
 
 葬儀は酷く暑かったことを覚えています。学校の友達、近所の友達、様々な人が来ていました。みんな泣いていました。僕は泣きませんでした。Sちゃんはやっと楽になったんです。もう、痛い思いしなくていいんです。いなくなることは悲しいし淋しいけど、もう終わったんです。

「Sちゃんの分までこれからはしっかり生きよう。」と思って僕は考えました。「Sちゃんの分までっていうのはおこがましい。人間、二人分なんて生きられないんだから。だからせめて、Sちゃんに「そんなことやってるんなら、私と代われ」って言われないように生きよう。」


毎年、桜が咲くころになると、Sちゃんのことを思い出します。
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【2006/04/09 23:59】 一言おおい君の日記 | トラックバック(0) | コメント(3) | page top↑
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